4月の末頃に山で一匹のセミの鳴き声を聞いた。
良い天気続きのこの頃、
うっかり早く地中から出て来てしまったセミ。
辺りには鳴き声を競う他のセミも居らず、
求愛を受けてくれる雌のセミも居ない。
たった一匹で鳴くだけ鳴いて、
たった一匹で寿命を終える。
やがて夏が来て、
他のセミ達が土の中から這い出してきても、
先にそんな仲間が居たことなんて知る事もなく、
夏の山に彼らの鳴き声が吸い込まれて行く。
やがて夏が来て、
他のセミ達が土の中から這い出してきても、
先にそんな仲間が居たことなんて知る事もなく、
夏の山に彼らの鳴き声が吸い込まれて行く。
夏の初め、
心は少し何かを期待する。
その何かはハッキリしないけど、
多くの生き物が夏に活発になるのと似ているのかもしれない。
でも僕は、
夏に花を咲かせる訳でもなく、
盛大に鳴いたりする訳でもない。
ただひとり、
ハッキリしない夏への期待を抱くだけで、
暮れてゆく茜の空を見とれて時を過ごすだけだ。
夕闇はやがて闇になり、
独りたたずむ僕を隠してくれる。
そしてまた朝焼けに頬が染まる。
あとどれくらい続くのか分からないけど、
時間が空に染まっていたら、
その度に僕は見とれてしまうだろう。
たぶん、
夏の美しい夕焼けは、
やがて来る淋しい季節を予感させるから、
僕は夏に期待しているのかもしれない。
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