2014/09/12

月明かりに諭されて










夕暮れになると、
そこいらの草むらから秋の虫の鳴き声が聴こえて来る。
まん丸い大きな月が夜空に上がり、
久し振りに感じる肌寒さ。
夏の暑さは、
辺りが静かでも何となく騒がしいのに、
秋の涼しさは、
騒がしい虫の声を連れて来ているのに、
とても静かだ。
騒がしい静けさの中、
月明かりに照らされて僕の影が伸びてゆく。
伸ばした僕の手の影は、
ずい分先の暗闇に溶け込んでいる。
影をまさぐる僕の手の影は、
まるで僕には他人事だ。
僕の影が他の影を掴んでも、
僕には何も感じない。
影ではしっかり掴んでいるのに、
月明かりに青く照らされる僕の手は何も掴んでいない。
僕は、
中秋の夜に色を無くし、
青白く立ち尽くして背中に月を感じている。




























                            




                                                                                 
                                             生駒 くろんど池周辺 






高校生の頃、
良く月夜の晩に家を抜け出した。
あてもなく夜道をうろつき、
月明かりにに照らされた何時もとは違う村を、
ただうろついていた。

時には、
月があまりに綺麗だから、
少しでも近づきたくて家の屋根の一番上まであがった事もある。
夜中の村はみんな寝静まり、
煌々と照る月の光に瓦の波が青く光ってる。
それを見ていると、
何となく自分が大きくなったような気がした。
普段の生活で、
辛かったり、悲しかったりして、
なんとなく自分が小さく萎縮しているよう。
でも、
誰も居ない月明かりの下。
頬を撫でる夜風が心地良く、
瓦の波に只一人。
青白い色しかない世界で、
身体の半分が暗闇になると思考も単純になったような気がする。
独りしかいないことは、
とても気楽で、
心地良い孤独感にいつまでも浸ってられる気がする。

その夜、
屋根から下りる時、
うっかり滑って屋根から落ちた僕。
かなりの音を立てたのにもかかわらず、
家族の誰一人起きてこず、
痛みでしばらく動けなかった僕は、
心地悪い孤独感に浸っていた。



















































































月明かりに照らされる僕は、
殆ど影で、
殆ど色が無い。
僕はそんな乏しい自分さえ見えない。
僕は暗闇にのまれ、
その辺の草むらとなんら変わりなく、
自分から光ることも無い。
ただ、
青白く月明かりを反射しているだけ。

その心地よさは、
ただ僕が暗闇に逃げているだけなんだろう。
そして、
生きると言うのも、
常に逃げているだけ。
僕たちは現実にはあまりにも無力で、
光を熾して誤魔化しているだけだ。

それをあざ笑うように月は煌々と僕を照らし、
僕の影は闇に長く伸びてゆく。













今日も最後までお付き合い下さってありがとうございました。