2015/05/28

朝夏(ひとりの季節)
















4月の末頃に山で一匹のセミの鳴き声を聞いた。
良い天気続きのこの頃、
うっかり早く地中から出て来てしまったセミ。
辺りには鳴き声を競う他のセミも居らず、
求愛を受けてくれる雌のセミも居ない。
たった一匹で鳴くだけ鳴いて、
たった一匹で寿命を終える
やがて夏が来て、
他のセミ達が土の中から這い出してきても、
先にそんな仲間が居たことなんて知る事もなく
夏の山に彼らの鳴き声が吸い込まれて行く。












































































夏の初め、
心は少し何かを期待する。
その何かはハッキリしないけど、
多くの生き物が夏に活発になるのと似ているのかもしれない。
でも僕は、
夏に花を咲かせる訳でもなく、
盛大に鳴いたりする訳でもない。
ただひとり、
ハッキリしない夏への期待を抱くだけで、
暮れてゆく茜の空を見とれて時を過ごすだけだ。





































夕闇はやがて闇になり、
独りたたずむ僕を隠してくれる。
そしてまた朝焼けに頬が染まる。

あとどれくらい続くのか分からないけど、
時間が空に染まっていたら、
その度に僕は見とれてしまうだろう。
たぶん、
夏の美しい夕焼けは、
やがて来る淋しい季節を予感させるから、
僕は夏に期待しているのかもしれない。


























今日もお付き合い下さってありがとうございました。






♪ 晩夏(ひとりの季節) 秦基博











2015/05/21

瞳を投じて












もうすっかり夏になってしまった。
時間が経つことの速さをカレンダーで知る日々。

流れて行くわけでもなく、
消えて行くわけでもなく、
遠くへ行くわけでもなく。

カレンダーをめくり忘れたって時を止めることは出来ない。
この紙切れはただの観念で、

裏返すだけで何の意味も無くなってしまう。
破り捨てればただの紙切れになってしまう。
雨に濡れれば少しずつバクテリアに分解されてしまい、
あったことも忘れてしまう。

そしてまたカレンダーを見て、
時間がもうこんなに経ったのかと驚いてみる。


























































何処に行ったわけでもないのなら、
何故そばにいないのか。
ここにいる僕は表にある木々となんら変わりなく、
ただただ生きているだけだ。
新しい細胞が生まれては、
剥がれ落ちて行くだけ。
残っているのは記憶だけ。
その記憶の為だけに生きている。















































必要なものは内にある。
瞳を内に投じれば甘い記憶の中に皆がいる。
破り捨てた記憶も海風にヒラヒラ舞って、
たいした事じゃないと慰めてくれる。




















いつもここに訪れてくれてありがとうございます!